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ep25 魔女のおもてなし

Author: 根上真気
last update publish date: 2026-03-10 15:41:28

「これを、本当にコハクお嬢さまが?」

食卓に並べられた料理の数々を見て、ナイジェルは目を見張った。しかも彼にとっては(というよりこの世界の人間にとっては)実に新鮮な料理もある。

「もちろん使用人の皆さんにも手伝ってもらったけどね」

コハクは食器を運びながら微笑んだ。異世界での初めての料理は、まずまず満足のいく出来具合だった。最初は躓きもあったものの、使用人たちのサポートもあって無事一定レベル以上の仕事を完成できた。

「コハクお嬢さまは、とてもお料理がお上手でいらっしゃいます」と給仕係の使用人も太鼓判を押してくれた。「このようなご令嬢が世の中にいらっしゃるな

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  • 婚約してから始まる恋~炎の魔女と氷の公爵様   ep29 報告

      【8】コハクたちが領主邸へ赴こうと屋敷の扉を開けた時だった。明け方まで降り続いていた雨が止み、草木に残る雨露が眩しい朝陽に照らされる中、女がひとり急いで屋敷へ訪ねてきた。「おはようございます。そして戻りが遅くなりまして大変申し訳ございません」女はコハクたちと顔を合わすなり深々と頭を下げた。長髪をひっつめた地味な雰囲気の真面目な女。メアリーだ。「メアリー、今戻ったのね!」とアンが駆け寄って迎える。「本当は昨夜中には戻る予定だったのですが、天候の影響で遅れてしまいました」「いいのいいの。なんとか間に合ってくれて助かったわ」「間に合う?」メアリーの顔が上がる。「何か状況に変化があったのですか?」「グレイシャ公爵の都合で、婚約申込への返答期日が今日までになってしまったの」「そうだったのですか......ならば意地でも昨夜中に戻るべきでしたね」メアリーは再び頭を下げた。「大変申し訳ございません」「それはもういいの。それよりもメアリー、さっそくで悪いのだけれど」「調査結果ですね」メアリーの顔が速やかにスッと上がる。今がどういう状況か、瞬時に彼女は理解したようだ。アンが頷く。「今からすぐに私たちはコハクお嬢さまをお連れして領主邸へ行かなければならないの」「承知しました。では報告については」「取り急ぎ結論だけ教えてちょうだい」アンの指示に合わせて、コハクとナイジェルもこくっと頷いて見せた。メアリーはコハクを一瞥してから、アンに視線を戻す。「クロー・グレイシャ公爵に、何も問題はございません」メアリーの報告に、コハクとナイジェルはホッと胸を撫で下ろした。だが、アンはメアリーと目で何かを会話していた。「アン?」とコハク。「いえ、なんでもありません」アンはコハクに微笑みかけると、仕切り直した。「では参りましょう。メアリーも付いてきて」一向はメアリーを加え、屋敷を後にした。コハクはしかと前を向く。もう迷わない。下した結論を、しっかりと伝えるんだ......。

  • 婚約してから始まる恋~炎の魔女と氷の公爵様   ep28 雨(3)

    ナイジェルの屋敷に戻ると、コハクとアンは机を挟んで向かい合った。「コハクお嬢さま」「うん」「コハクお嬢さまは......」アンの目が真っ直ぐにこちらへ向く。「クロー・グレイシャ様をお慕いになっていらっしゃるのですか?」単刀直入な質問だった。コハクも、訊かれるだろうなと覚悟はしていた。だが、ハッキリとは答えられない。ハッキリすべきだし、ハッキリさせたいとも思っている。しかし難しい。そもそも、まだ相手のこともよく知らないのだから。「その......もう会えないのかなと思ったら、いてもたってもいられなくなって......」それは、可能な限り正直な気持ちをそのまま言語化した言葉だった。嘘も取り繕いもなかった。「コハクお嬢さま」とアンはいったん間を置いてから、改まったように言った。「将来、彼と婚姻を結びたいですか?」質問がさらに直球になった。しかしこれもコハクの予想の範囲内ではあった。それでもやはり、ハッキリとは答えられない。前世でも結婚はしたことがない。ましてや今世の自分は女の子。いずれは妻として彼に添い遂げる――それはまるで未知の領域と言えた。「正直、ボクには、そういうのはよくわからない。ただ、あの人と一緒に行きたい思った気持ちは嘘ではないよ?」「私と離れ離れになっても、ですか......?」それを口にした途端、アンはハッとして目を逸らした。明らかに言ってしまったという素振りだ。その瞬間、コハクの胸はぎゅっと締めつけられる。「ご、ごめんね、アン!」慌てて謝罪する。「な、なぜ謝るのです?」アンの視線がこちらへ戻った。「一緒に行きたいなんて、身勝手だったよね。いつもボクにやさしくしてくれるアンのこと、ナイジェルさんのことを、まるで考えてないみたいだもん......」「そ、そんなことはないです!」今度はアンが慌てて謝罪する。「コハクお嬢さまにそんなことを思わせてしまったのなら、私の方こそ身勝手です! 愚かにも私はコハクお嬢さまに亡き妹を重ねてしまっているのだから!」アンの叫びは、コハクの胸に痛いぐらいに響いた。コハクは思う。アンを置いていくことは、ボクには許されないことなんだ......。「やっぱりボクはここへ残るべきなんだよね。わかってるよ」「コハクお嬢さま!」とアンは立ち上がり、コハクへ接近してくるなりすがるように抱きついてきた。「本当

  • 婚約してから始まる恋~炎の魔女と氷の公爵様   ep27 雨(2)

    「お待ちください!」アンが声を上げる。「アン、落ち着いて話をしよう」ナイジェルがなだめるように割って入った。「大丈夫」アンはきっぱり言う。「私は冷静です」「ならいいが......」「領主さま」アンはコハクでもクローでもなく、領主へ矢を向けた。「なんですか、アン」「少々、お待ちいただけないでしょうか?」「その理由は?」「一度、コハクお嬢さまと二人でお話がしたいのです」「しかしグレイシャ様をいつまでもお待たせするわけにはいかないですよ?」領主はクローへ振った。クローは相変わらずクールに事の成り行きを見守っていた。「明日まででしたら待ちましょう」「感謝します」「では」クローがすっくと席を立つ。「私は失礼します。何かあればいつでもお呼びください。いずれにしても明日までは滞在していますから」クローが退室していく。コハクは彼の一挙手一投足を観察していたが、彼の心情はまったく読み取れなかった。一緒に行きたいと言ったことを、なぜ喜んでくれないのだろう? 最初にボクを連れ帰りたいと言ったのも、婚姻を申し込んできたのも、全部その場の勢いだったの?「でも、そもそもが病気の弟さんのためなんだよね......」コハクは今さらながらのことに溜息をついた。そう、これは色恋とは無関係なんだ。ボクが一緒に行きたいと言ったことも、そういうことではないんだ。そうだよ。ボクは何を一喜一憂しているんだ。恋する乙女でもないのに。「さて......」領主が満を持したように立ち上がると、アンへ迫っていく。「貴女、私に隠れて何かやっているでしょう?」「なんの話ですか?」アンはしれっとしている。「まったく、幼い時分は姉妹ともども可愛い娘だったのに」やれやれと領主は小さく顔を振る。アンは変わらず取り澄ましている。そんな二人を見るに見かねたのか、ナイジェルが腰を上げて間に入っていった。「バーさん。アンはコハクお嬢さまのことを、深焔の魔女のご令嬢だとかそういうことは抜きにして、本当に心配しているんだ。その気持ちは俺も一緒だ。バーさんだって、わからないではないだろ?」「私は領主として〔マギアヘルム〕を守っていかねばなりません。コハクお嬢さまは特別な存在。そしてクロー・グレイシャは貴族で最高位の爵位である公爵でありグレイシャ家の現当主。そのうえ魔法にまで長けている。このような相手とこ

  • 婚約してから始まる恋~炎の魔女と氷の公爵様   ep26 雨

      【7】コハクがこの世界に転生してから一週間、すなわちクロー・グレイシャより婚約を申し込まれてから六日が過ぎた日の午後だった。「生まれ変わってから初めての雨だな......」コハクは部屋でひとり、何となくしんみりしていた。朝から続く雨と肌寒い気温のせいかもしれない。そこへある報せが届いた。「えっ??」その話をアンから聞いた時、コハクは動揺を隠せなかった。「今、ナイジェルが領主邸へ確認しに行っています。これから私も参りますが......」アンがじっと見つめてくる。表情から感情を読み取ろうとしているようだ。コハクは一瞬どうしようか迷うが、迷うも何も選択肢はひとつしかなかった。「ぼ、ボクも行く!」「では、一緒に参りましょう」アンはあっさり承諾した。コハクはすぐに着替えると、アンとともに足早に屋敷を後にした。領主邸に着くと、使用人から応接室へ通される。部屋に入ると、領主のバーバラと息子のナイジェル、そして若き公爵クロー・グレイシャがテーブルを挟んで向かい合っていた。「なんだ、アン」領主が口をひらく。「コハクお嬢さまをお連れしてきたのですか」「当然です。当事者ですから」アンの口調には非難めいた響きがあった。「アン、とりあえず座ってから落ち着いて話そう。コハクお嬢さまも、まずはお座りください」ナイジェルがコハクとアンを席へ促した。アンは、クローへ軽く一礼をしてから席に着いた。コハクもそれに続いた。「して、グレイシャ様」領主が仕切り直すように切り出す。「明日中に婚約申込へのお返事ができなければ、行ってしまわれるという意志は変わらないのですね?」「もちろん簡単にお返事いただけるような事柄でないのは重々承知です。伝説の魔女のご令嬢との婚約ですから」クローが答える。彼はまっすぐに領主を見ている。コハクへは視線を向けてこない。それをコハクは特段冷淡だとは思わなかった。だが、本当にもう会えないんだ......という想いが波紋のように胸の泉に広がった。そうなった途端、いても立ってもいられなくなる。「で、でも、弟さんは??」コハクは慌てて尋ねる。声が上ずっていた。「だからこそなんだ」クローはやっとコハクの方へ顔を向けた。「いつまでもここでじっと待っているわけにもいかないんだ。待った挙句に良い返事をもらえなかった場合は、限りある時間を無為に過ごしてしま

  • 婚約してから始まる恋~炎の魔女と氷の公爵様   ep25 魔女のおもてなし

    「これを、本当にコハクお嬢さまが?」食卓に並べられた料理の数々を見て、ナイジェルは目を見張った。しかも彼にとっては(というよりこの世界の人間にとっては)実に新鮮な料理もある。「もちろん使用人の皆さんにも手伝ってもらったけどね」コハクは食器を運びながら微笑んだ。異世界での初めての料理は、まずまず満足のいく出来具合だった。最初は躓きもあったものの、使用人たちのサポートもあって無事一定レベル以上の仕事を完成できた。「コハクお嬢さまは、とてもお料理がお上手でいらっしゃいます」と給仕係の使用人も太鼓判を押してくれた。「このようなご令嬢が世の中にいらっしゃるなんて、私どもは大変驚きました」使用人たちはひとり残らずコハクに心を奪われたようだった。それは彼女の料理の腕前のためだけではない。伝説の魔女の令嬢とは思えない謙虚な姿勢や態度が、使用人たちへ多大なる好感を与えたのである。「私よりも、上手よね......」アンも舌を巻く。コハクから手伝うことを固辞され、客人のようになっていた彼女は、コハクの知られざる能力に目を見張るばかりだった。「見たことのない料理もあるな」クローは食卓を興味深く眺める。「どこかの民族料理だろうか」「うん、そんなところかな(ただの和食だけどね...」

  • 婚約してから始まる恋~炎の魔女と氷の公爵様   ep24 対面

    翌日の午後、アンの案内でコハクはクロー・グレイシャの宿泊先を訪れた。若き公爵はコハクを見て「あっ」という目を浮かべたようにも見えたが、これといって特別な反応は示さなかった。やや緊張していたコハクは、若干拍子抜けしたような気分になる。ただ、そのぶん肩の力も抜けた。そうして改めて若き公爵を見てみて......思う。本当に綺麗で格好良い、完璧な美男子だなと。しかも単純な造形の美しさからだけではない、内側から滲み出る気品のようなものがあった。彼の蒼き瞳にじっと見つめられたら、女ならば皆すべからず落ちてしまうんじゃないか......そんなことさえ思ってしまう。「本日はどんな御用でしょう」三人が着席するなり向こうから切り出してきた。アンがコハクへ目配せする。コハクは小さくコクッと頷いた。「お伝えするのが遅れてしまいましたが......先日は助けていただきありがとうございました」コハクは丁寧にお辞儀もした。ちゃんと伝えられた。胸のつかえが取れた気がした。「質問してもいいかな?」とここでクロー・グレイシャが唐突に言った。「えっ、あ、ボクに、ですか?」意表を突かれたコハクは顔を上げて目を丸くする。「それと、私に対してそこまで丁寧な態度で接しなくていい、というよりやめてくれませんか? 魔女さま」「ま、魔女さま??」「今後のことを考えて、貴女とは対等に話したい」 「今後のこと......」アンにはその言葉が引っかかったようだが、コハクは気に留めなかった。「わ、わかりました」コハクは素直に応じる。「その代わりボクのことを魔女さまと呼ぶのもやめてください。コハクで構いませんから」 「承知した。私のこともクローで構わない」「う、うん、わかった」なにこのマジメ同士のお見合いみたいな感じ......とアンは怪訝な表情を浮かべる。しかしコハクから拒否反応がまったくうかがえなかったので、口を差し挟むことはなかった。「では質問に戻るが」クローが仕切り直した。「コハクは自らの魔法をコントロールできないのか?」実はこの質問、昨日にアンも受けたものだった。その際にアンは「私からは何とも申せません」としか答えていない。つまりクローは同様の質問を、今度はコハク本人へぶつけてきたのである。それだけ気になっていたのだろうか。コハクお嬢さま、とアンが意味ありげにコハクへ視線を向ける

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